11章 時間のひずみ
『ヒュ―ン』
あ、公園に帰ってきたみたい。
速いなぁ、まばたきする間にもう帰ってきてる。
ううー、それにしても。夜だから寒い……風邪ひきそう。
木枯らしの風が私たちにぶつかってきた。
でも秋ってこんなに寒かったっけ? こんなに冷え込むってまるで冬みたい。
「じゃ、私とレリは帰るわね」
「お姉ちゃんが帰ってきたら、お母さんとお父さん、どんな顔するかな?」
レリの家とは反対方向だから、ここで別れた。2人が帰っていくのを見送ってから歩きはじめる。
すごく嬉しそうにレリはラミさんと帰っていく。良かった。
「帰ろっか。美紀と鈴実を送って帰るよ。そう遠くないんだし」
美紀を家まで送ってユーターンして自分の家に帰ろうとしたんだけど。
なぜかお父さんとお母さんが美紀の家の玄関から現れた。どういうことだろう?
靖の両親と鈴実のお姉さんとレリの両親と外国にいるはずのレリのおじいちゃんとおばあちゃんまで。
それから妹2人と、美紀のお兄さん、めずらしくいる美紀のお父さん、靖の弟2人まで。
それからずっと家を空けてある鈴実の両親、鈴実のおじいちゃんおばあちゃんまでの人もいる。
私達の家族全員が集まってた。しかも鈴実のお父さん以外は皆信じられない、という顔をしている。
「な、何で親父が!?」
「お父さんまで!」
靖と鈴実がすっごく驚いてる。鈴実のお父さん、滅多にかえってこないんだもんね。
そういえば私の家も靖の家も鈴実の家も灯りついてなかったっけ。
変だなーとは思ってたけど、なるほどー。その真相はこういうことだったんだね。
「……レリは。あの子は、いないの?」
え、あ。そうだ、レリのお母さんはラミさんのこともあって子供の行方不明には弱いんだっけ!
レリのお母さんもう泣き出しそうだった。あわわ……どうしよう。
これって間違いなく私たちのせいだよね? こんなことならレリにも一緒に来てもらうんだった!
「ねえ困ったよ、皆! 家の鍵が開いてないしチャイム押しても誰も出てこないの!」
「レリ、美紀ちゃんの家にいっても迷惑かけるだけでしょう」
タイミングよくレリが、その後に数秒遅れてラミさん登場。
今にも泣き崩れそうだったレリのお母さんの目から一滴涙が落ちて、それと一緒に沈黙が起きた。
「ラミ……? これは、どういう……」
「What miracle! My missed daughter came back! Did you find out her? You?」
レリのお母さんとお父さん以外に、お母さんたちは誰一人として、声が出せないみたいだった。
うーん、でも鈴実のお父さんの場合は出せないっていうよりも単に出さないってだけかも。
もしかしたらたった一人、鈴実のお父さんだけはこうなることを予測してたのかな?
その後叱られるかと思ったけど、ラミさんを連れ戻してきたということで、怒られずにすんだ。
レリのお母さんが庇ってくれたから。でも、そこで驚くべき発言がされた。
なんと、三ヶ月も私たちは行方不明になってたらしい。あっちでは二日しか経ってないはずなんだけどね?
まあとにかく。レリが首謀者のラミさん探しだったってことで、丸く収められることに。
本当はラミさんを探してたわけじゃなくて、むしろ偶然というか……だったんだけど。
そんなことはうちのお母さんにはバレバレなんだけど罰は与えられなかった。
理由と行動はどうであれ、長年行方不明だったラミさんを連れ戻してきたというのは紛れもない真実だったから。
でも、イギリスで行方不明になった人が日本で発見されるってどうなんだろう?
レリのお母さんは思い込みの激しいきらいがあるから、ラミさんが自分一人でパスポート取得したとか考えるのかな。
ラミさんを発見したという功績から、今回はどの家も不問に処す。
そういう判決が下された後、皆自分のお父さんとお母さんに両脇を挟まれて家路についた。
悪いことは何もしてないはずなのに、なんだか連行されてるみたいだなあ。補導に近いけど。
帰り着いた先は、牢獄のようにも思えたけど。玄関に踏み込んだ途端、妹二人に抱きつかれた。
「おねえちゃーん」
「しんぱいしてたんだよー」
妹2人が私の腰に抱きついてわんわんと泣いた。心配、かけてたんだなあ私。
自分の感覚としては二日のつもりでも、妹たちにとっては三ヶ月の経過だもんね。
『カチャ』
お父さんが家の鍵を閉めた頃、私より後に入ったはずのお母さんはもう床にあがっていた。
そのままリビングに行くんじゃなくて、くるりとまだ靴も脱げてない私に向き直って一言。
「清海、どこか行くならちゃんと帰って来る日とだれと行くのか書き置きを置いて行きなさい」
こ、この母は……詳しい書き置きさえ残していればそれでいいと? 行方不明化公認しちゃう?
「お、お母さん。それだと夜でもだれと行って何日でかけるかを書き置きしておけばそれで良いって」
ここくらい、否定してよ? お父さんはお母さんには逆らおうとは微塵も思ってないし。
その証拠に私から双子を引き剥がして同時にあやしながら、ささっとリビングに移動していた。
逆らうどころか、お父さん逃げた! お母さんがもし私を怒っても妹に悪影響与えないように隔離したよ!
ううー、お母さんが嫁にきたんだから普通なら立場は逆なのに。
レリのお母さんに約束した手前、こっぴどく叱られることはないはずだけど絶対そうとは言い切れない。
こ、怖いなあ。この展開からでもお母さんはお説教に入ったりするんだもん。お説教怖い。
どうか普通に肯定か否定してくれますように。小言がついたらお説教が始まる合図だよー。
「良いわよ。誰かと一緒なら問題ないわ。まだ襲われるような年でもないし。
ただし書置きで帰って来る時間、曜日を間違えたら外出禁止令出すわよ。今回だけよ、例外は」
「はーい……」
「わかればよろしい。ほら、さっさと上がりなさい。夕食は準備してあるわ」
私が椅子に着いたことを確認すると、お父さんは子供用のシャンパンを開けた。あれ、どうして?
私と加奈と稚奈、三人のワイングラスにだけシャンパンを注いでいく。
お父さんとお母さんはグラスの形に相応しく、並々とお酒を盛っていた。二人とも酒豪だからなあ。
「今日はクリスマスだ。今年も家族で過ごす事ができるな」
「へっ……クリスマス? 聞いてないよ」
「聞かれないことを教えるのも変な話だろう」
「あ、うん。それもそうだけど……ビックイベントだよ。普通、言わない?」
「言わない。うちには敬虔な信者もいないし、祭りにかこつけてご飯が豪華になるくらいだよ」
いやまあ、正論だけど。でもクリスマスっていったら一大行事なのに。
あ、それにクリスマスって……中間も期末も二学期も終わってるってことだよね。
え、テスト二つも受けてないの私。つまり全科目ゼロ点が……二回?
う、嘘。そんなの成績に響くよ。内申点がた落ちじゃない? え、いやいやいや。
ないないない。何がないのかわかんないけど、とにかくそれはないって。いくらなんでも。
「ええ、今年はギリギリだったわね。清海、遅くなったけど誕生日おめでとう」
そう笑うお母さんの手元にあるもの。
私が受け取った覚えのない、通信簿がそこにあるのはどーしてでしょうか。
あ、いやそれよりも。私の誕生日?
えーと、確かにクリスマスの2日前だね。そして今日がクリスマス。イブかもしれないけど。
覚えやすいのに最近いろいろあったから自分の誕生日も忘れてた……って何かが違うよ!?
「わーい♪」
「おねえちゃん、13さいおめでとー!」
テーブルの上にはクラッカー、アルコール抜きのシャンパンにクリスマスケーキに七面鳥、等々。
私がいなくてもやる予定だったみたい。クラッカーが3人分しか用意されてないもん。……むう。
「清海の分も出さないとね」
疑問を覚えつつ、お母さんから手渡されたクラッカーをひいた私だった。
うーん、これって光奈のおこした間違い? 3日しか経ってないはずなのに3ヶ月も。
中間も受けてないし、期末も終ってる……テストは好きじゃないから良いんだけど。
本当にこれで良いのかなー? 何か大切なことが抜けてると思うんだけど、気のせい?
「Marry Chirstmas and a happy birthday to you!」
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